研究概要 |
α2,3-シアル酸転移酵素遺伝子欠損マウスは,てんかん刺激に非応答であり,てんかん発作を発症しない。また,うつ病や不安障害等の神経精神症状を示す。本研究の目的は,この遺伝子欠損マウス脳から,てんかん~不安障害・睡眠障害に関わる分子を同定することである。症状に連動したシアル酸化分子を同定するため,恐怖条件付け試験実施後,不安記憶増強を示すα2,3-シアル酸転移酵素遺伝子欠損マウスと,そのコントロールである野生型脳から,糖タンパク質あるいは糖脂質を抽出することとした。申請者は,平成22年に大阪府立大学から京都産業大学に移動したことから,新たに新設した実験動物室にて恐怖条件付け試験を再検討した。その結果,α2,3-シアル酸転移酵素遺伝子欠損マウスが強い恐怖記憶を示した。さらに音に対する感受性を見るため,驚愕試験を導入した結果,正常マウスで生じるプレパルスインヒビション(PPI: 突然の強い感覚刺激(パルス)によって引き起こされる驚愕反応が,先行する弱い感覚刺激(プレパルス)によって抑制される現象)が,α2,3-シアル酸転移酵素遺伝子欠損マウスでは阻害された。このことから本マウスは統合失調症様症状を呈することがわかった。また同定分子の検討をつけるため,α2,3-シアル酸転移酵素遺伝子欠損マウス脳と野生型脳を用いて,ジーンチップアレイを行ったところ,てんかん発症モデルマウスとα2,3-シアル酸転移酵素遺伝子欠損マウス間で見られるα2,3-シアル酸転移酵素mRNAの発現量の増減が,成長ホルモンをはじめとするいくつかの遺伝子発現の増減に強く連動する事がわかった。 以上の知見より次年度は,恐怖条件付け試験と驚愕試験の感受性を示すマウス脳を用いて,ジーンチップにより得られた候補分子を含めた分子の糖鎖構造を検討する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
申請者は,平成22年に大阪府立大学から京都産業大学に移動したことから,京都産業大学にて行動実験用の実験動物室を新たに新設した。すると恐怖条件付け試験において,α2,3-シアル酸転移酵素遺伝子欠損マウスは,不安記憶の上昇を示さなくなった。そこで平成23年度は,前所属で行ってきた恐怖条件付け試験を含む行動実験を再検討した。結果,ホワイトノイズの存在を排除し,音刺激及びフットショックの電流を弱くする事で,野生型ではほとんど不安を示さない刺激が,α2,3-シアル酸転移酵素遺伝子欠損マウスでは強い恐怖記憶を誘導した。さらに,強制水試験や驚愕反応を新たに導入し,うつ病と統合失調症様症状を示す事を発見することが出来た。その一方で,てんかん~不安障害・睡眠障害に関わる分子については,ジーンチップにより候補となる分子を得たのみであり,シアル酸化の有無は確認できていない。
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今後の研究の推進方策 |
京都産業大学にて新たに新設した実験動物室内で,行動実験の立ち上げに成功した。また,てんかん発症モデルマウス脳とα2,3-シアル酸転移酵素遺伝子欠損マウス脳遺伝子発現解析より得られた候補分子を元に,次年度はシアル酸化分子の同定を試みる予定である。
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