研究課題/領域番号 |
22580340
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
加野 浩一郎 日本大学, 生物資源科学部, 准教授 (80271039)
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キーワード | 多能性獲得 / 脱分化 / バイオインフォマティクス / プロトプラスト / 脂肪細胞 / 卵胞顆粒層細胞 |
研究概要 |
本研究では、まずブタ脂肪細胞(Ads)および卵胞顆粒層細胞(GCs)の脱分化および多能性獲得に関与する遺伝子群を抽出する目的で、AdsおよびGCsの脱分化および多能性獲得過程で得られた経時的なマイクロアレイデータをもとにして、それらの過程に特徴的な遺伝子発現パターンを調べた。その結果、体外培養したGCsは、培養24時間後までにGCs特異的遺伝子群の発現が急速に低下した。一方、有意に発現上昇した遺伝子は培養24時間後に最も多かったが、その後は殆ど変化しなかった。また、有意に発現上昇した遺伝子は、"ストレス応答"、"形態変化"および"組織形成"に関わるものであった。以上の結果から、GCsの脱分化および多能性獲得は培養24時間以内と極めて短時間に起こると推察された。次いで、公共のデータベースに公開されている植物および動物の体細胞とそれに由来する多能性細胞(プロトプラストおよびiPS細胞)のマイクロアレイデータを取得し、生物情報学的手法を用いてAdsおよびGCsに由来する多能性細胞と比較解析を行なった。その結果、葉の組織を酵素処理して得られたプロトプラストでは、光合成に関わる遺伝子群の発現が低下し、外傷およびストレス応答に関わる遺伝子群の発現量が増加することが明らかとなった。また、ブタ胎子線維芽細胞(PFF)由来のiPS細胞とAdsおよびGCs由来の多能性細胞から得られたデータを主成分解析した結果、PFF、AdsおよびGCs由来の多能性細胞の遺伝子発現状況は類似したが、iPS、AdsおよびGCsとは大きく異なった。以上の結果から、AdsおよびGCsに由来する多能性細胞は、1)プロトプラストと同様にストレス応答に関わる遺伝子群が脱分化および多能性獲得する過程において高発現すること、2)PFFの遺伝子発現状況と類似するが、多能性をもつiPS細胞とは異なった特徴をもつことが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度では、体外培養した成熟脂肪細胞および卵胞顆粒層細胞が培養24時間後と短時間で脱分化し、多能性獲得すること、また脂肪細胞および卵胞顆粒層細胞に由来する多能性細胞は、植物の葉肉細胞に由来するプロトプラストと同様の機能をもつ遺伝子が高発現することを見出したことは、当初の計画通り順調に進展している。さらに、本年度では、成熟脂肪細胞および卵胞顆粒層細胞由来の多能性細胞は、胎子線維芽細胞の遺伝子プロファイルと類似したが、iPS細胞とは異なる特徴をもつことを明らかにしたことは、当初の計画以上に進展した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、成熟脂肪細胞由来の多能性細胞DEATの遺伝子プロファイルを種々の多能性細胞(体性幹細胞)のそれと比較解析することによって、脱分化および多能性獲得に関与する重要な遺伝子を絞込み、抽出を試みる。また、本年度において卵胞顆粒層細胞が培養24時間後に脱分化し、多能性獲得することを見出したが、機能細胞から脱分化し、多能性獲得する過程において染色体の構造変化が起こると推察される。今後は、その仮説を証明すべく脱分化および多能性獲得の過程におけるヒストン修飾状況の変化を調べる。さらに、機能細胞を組織から採取し、体外培養することによって染色体の構造変化が惹起されると推察されるが、どのような要因が機能細胞の染色体の構造変化誘発することによって、脱分化および多能性獲得を制御するのかを明らかにする。
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