本年度は、成熟脂肪細胞に由来する脱分化脂肪細胞DFATの多能性に関連する遺伝子を明らかにする目的で行なった。すなわち、我々が取得したDFATのマイクロアレイデータと遺伝子発現情報データーベースが提供する種々の多能性細胞のマイクロアレイデータを比較解析することによって多能性に関連遺伝子の抽出を試みた。まず、DFAT、胚性幹細胞、神経幹細胞、肝芽細胞、間葉系幹細胞であるMSCsおよびC3H10T1/2のマイクロアレイデータを主成分分析した。その結果、成熟脂肪細胞に由来するDFATは間葉系幹細胞であるMSCsおよびC3H10T1/2と高い類似性を示したが、外胚葉由来の神経幹細胞や内胚葉由来の肝芽細胞とは著しく異なっていた。次に、先に行なった主成分分析の結果を基に、DFAT、MSCsおよびC3H10T1/2、さらには分化能をもたない線維芽細胞株BALB-3T3の遺伝子発現プロファイルを用いて比較解析することによって多能性関連遺伝子の抽出を試みた。その結果、DFAT、MSCsおよびC3H10T1/2それぞれに共通して高く発現する遺伝子117個が、また共通して低く発現する遺伝子339個が抽出された。さらに、それら抽出された遺伝子の中から核内転写因子を抽出するために、PANTHER(Protein Analysis Through Evolutionary Relationships)を用いて解析した。その結果、発現が高い117個の遺伝子の中には5個の核内転写因子(TF)が、また発現が低い339個の遺伝子のうち24個のTFが含まれていた。5つのTFの遺伝子機能を調べた結果、抽出したTFの2つは胚発生にかかわる遺伝子であり、残りの3つは組織特的遺伝子を抑制して多能性を維持する働きをもつことが明らかとなった。
|