ネコのウイルス感染症のうち,ネコ伝染性腹膜炎 (FIP) はワクチン開発が未だ成功しておらず,効果的な治療法も確立されていない疾患で,一度発症すると致死的な経過をたどる。このため,ウイルス複製制御因子を同定・解析し,病原性発現機構を明らかにすることが切望されている。 研究代表者は,免疫抑制剤サイクロスポリンA (CsA) がFIPウイルス(FIPV) のゲノム複製と転写を強力に阻害することを発見した。前年度において,CsA と結合する細胞内サイクロフィリン (Cyp) のうち、CypA およびCypB がFIPV の増殖を促進することを明らかにした。このため,CypB遺伝子発現のノックダウン細胞を作成し,FIPV を感染させた結果, FIPV のウイルス複製を有意に阻害することを認めた。さらにこのノックダウン細胞にCypB遺伝子を導入することでCypBの遺伝子発現を回復した細胞を作成しFIPVを感染させた結果,ウェスタンブロット法,リアルタイムPCR法,ウイルス感染価測定法のいずれにおいてもウイルス増殖効率が回復した。また、Cypが有するPPIase活性がウイルス増殖に関与するかどうかを検討するためにCypAおよびCypBの酵素活性を欠損する変異体遺伝子を作成し、これらを恒常的に発現する細胞株を作成した。これらの細胞株にFIPVを感染させたところ、CypAおよびCypBの両変異体でウイルス増殖効率が減少した。これらの結果から,Cyp蛋白質のPPIase活性がFIPVの増殖に関与していることが明らかとなった。今後,どのウイルス遺伝子領域がCypA およびCypBと関与し、ウイルス増殖を制御しているか,さらに解析が必要である。
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