Theileria orientalis(T.o)感染牛の末梢血由来マクロファージ系細胞株(iAdh)内にT.o原虫が存在することを証明する目的で、摘脾したSCIDマウスの腹腔内にT.o.非感染ウシ赤血球を移植し、その後、T.o原虫の存在を分子生物学的、免疫組織学的ならびに超微形態学的に認めたiAdh(Ikeda株に感染、12ヶ月間継代)をマウス腹腔内に接種した。その結果、細胞株間で差は認められたが、最も早い症例で感染細胞接種12日目に赤内型原虫が確認され、最高感染率が64日目で59.1%に達した。 そのマウスの末梢血からDNAを抽出し、Nested PCR法を行い、591bpのバンドを確認後、塩基配列を調べた結果、Ikeda株と99.8%の高い相同性が認められた。この結果より、iAdhで継代増殖したT.o原虫(Ikeda株)がSCIDマウス内のウシ赤血球に感染し、赤内型原虫へと分化増殖することが証明された。 我々は23年度に、重度の貧血がみられた日本短角種より、末梢血由来マクロファージ系の細胞を株化し、遺伝子検索した結果、T.oならびにBabesia ovata(B.o)の両原虫が混合感染していることを証明した。調査したウシは、22頭中19例にT.o原虫の感染が認められ、その内9例にB.o原虫の混合感染が認められた。これらの結果より、牧場近くに生息するシカについても混合感染が認められると考え、山梨県に生息する3頭のシカの末梢血および脾のマクロファージから細胞株を樹立した。培養前の末梢血、また、いずれの細胞株もMPSP遺伝子のU-プライマーを用いたPCRでT.o原虫を認めたが、B.o原虫の感染は認められなかった。細胞株の電顕所見では、細胞質の空胞内に500nm程度の類円形をした原虫が確認され、形態学的にウシの細胞株で観察されたT.o原虫と全く同様であることが判明した。
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