研究概要 |
Melissococcus plutoniusはヨーロッパ腐蛆病の原因菌で、ミツバチの健康を脅かす重要な病原体の一つである。本菌の培養にはNa/K比1未満の環境が必要であるとされており、それが菌種同定の重要な指標の一つにもなっている。しかし近年,国内でNa/K比1以上の培地でも発育する株(M.plutonius様菌株)が複数見いだされた。そこで,本研究課題ではM.plutonius様菌株がNa/K比1以上の環境下で増殖することを可能にした原因遺伝子を特定し、その情報を正確なヨーロッパ腐蛆病診断に役立てることを目的としている。 平成22年度は,先ずM.plutoniusの基準株と野外分離株(13株)及びM.plutonius様菌の野外分離株(19株)について培養及び生化学性状の比較を行った。その結果、M.plutonius様菌株は典型的なM.plutonius株とは異なり、カリウム濃度に依存しない発育を示すだけでなく、好気条件下での発育も比較的良好であることが明らかとなった。また、両者の間では糖分解能にも差が認められたが、16S rRNA遺伝子配列及びDNA-DNAハイブリダイゼーションの結果から、M.plutonius様菌も分類学的にはM.plutoniusと同一菌種であることが確認された。しかし、PFGEによる解析では培養及び生化学性状と同様にこれら菌株は2つのグループに分類され、これら性状の異なる菌株群は比較的古い時代に分岐し、日本を含む特定の地域でのみ低カリウム条件で発育するグループが定着した可能性が示唆された。また、M.plutoniusの基準株の全ゲノム配列を決定したところ、近縁の他菌種に比べカリウム代謝系の遺伝子数が非常に少ないという特徴が明らかとなった。
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