研究概要 |
Melissococcus plutoniusはヨーロッパ腐蛆病の原因菌で、ミツバチの健康を脅かす重要な病原体の一つである。本菌の培養にはNa/K比1未満の環境が必要であるとされており、それが菌種同定の重要な指標の一つにもなっている。しかし近年,国内で,発育にNa/K比1未満の環境が必要な典型的な性状の株(典型株)に加え、Na/K比1以上の培地でも発育する株(非典型株)が複数見いだされた。そこで,本研究課題ではM.plutonius非典型株がNa/K比1以上の環境下でも増殖することを可能にした原因遺伝子を特定し、その情報を正確なヨーロッパ腐蛆病診断に役立てることを目的としている。 H22年度からH23年度にかけて決定した典型株(基準株)、非典型株および基準株より生じたNa/K比1以上で発育可能な変異株(基準株由来非典型株)のゲノムを比較解析した結果、典型株ではNa^+の排出に関与すると考えられるNa^+/H^+ antiporter(MPTP_0420-0421)とcation-transporting ATPase(MPTP_1629)の遺伝子が変異によって失活していることが示唆された。一方、非典型株ではMPTP_0420-0421に相当する遺伝子は存在していなかったが、cation-transporting ATPase遺伝子は正常に機能していると予想された。また、基準株由来非典型株では、もとの基準株では失活していたNa^+/H^+ antiporter遺伝子の変異が修復され、活性型に戻っていることが示唆された。さらに、活性型と予想される非典型株のcation-transporting ATPase遺伝子と基準株由来非典型株のNa^+/H^+ antiporter遺伝子を基準株に導入した結果、カリウムを添加していないNa/K比1以上の培地でも発育が可能になった。以上の結果から、Na^+の排出系の遺伝子が機能しているか否かが、典型株と非典型株における発育性状の違いに関与していることが明らかとなった。
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