膵蛭と小形膵蛭の種の独立性を遺伝学的に評価し、形態学的な差異との関連性を解析した。東京都港区、島根県大田市、沖縄県石垣市、ブラジル、ベトナムの屠場で採取した虫体計125検体について、核ITS2とミトコンドリアCO1遺伝子のPCR、塩基配列解読を行ったところ、103検体で両領域の配列が得られた。系統樹解析では、両領域ともに2つのメインクレード(ITS2:α、β;CO1:a、b)に分かれ、69検体および33検体がα-a(遺伝子型A)およびβ-b(遺伝子型B)の組み合わせに含まれた。これらの虫体について、形態分類に利用される体長、体幅、口吸盤径/腹吸盤径比、精巣分葉、卵巣分葉の5項目について評価したところ、遺伝子型Aは48/69(69.6%)において4項目以上で膵蛭の、遺伝子型Bは7/33(21.2%)において4項目以上で小型膵蛭の特徴を示し、遺伝子型Aは膵蛭、遺伝子型Bは小形膵蛭であると考えられた。しかし、残りは形態学的に鑑別できない虫体であった。このことから、膵蛭と小形膵蛭は遺伝学的に区別できるものの、形態学的には完全な区別が困難であることがわかった。また、牛の産地を感染場所と考えると、島根県、九州内部からは膵蛭のみが、沖縄県本島・鹿児島県徳之島では小形膵蛭のみが、沖縄県八重山諸島では両種が分布すると推測され、2種の分布には地域的な偏りが存在すると考えられた。 虫卵排出牛13頭に対してプラジカンテル(25mg/kgおよび50mg/kgの1回経口投与)による駆虫試験を実施した結果、全頭で投与後7日以内に糞便内虫卵が陰転し、本法で駆虫が可能であることがわかった。 また、糞便内抗原検出法の開発を目的に、虫体粗抗原およびES抗原に対するウサギ抗体を作成し、サンドイッチELISAの各種条件設定を行った結果、粗抗原0.5ngを検出できるassay系を開発することができた。
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