研究概要 |
本研究の目的は、近縁系統の遺伝的関係解明のためのマーカーを開発し、解析結果を防御対策に活かすことにある。H23年度までに、U.S., Kobe, Munich, Hobetsu 系列それぞれ9,3,5,7 株とそれらの遠縁対照のアライグマ B.microti-様原虫、B.rodhaini、計26株のイントロン配列を決定、それらに基づく集団の遺伝的構造の解析を進めた。結果、(1) U.S.系列内部に遺伝的多様性がある(北米、東アジア、ヨーロッパから中央アジアの3亜系に分かれる)、(2) HobetsuとMunich系列の進化史は U.S. の数倍あるにもかかわらず遺伝的にはクローナルである、(3) Kobe系列は東京都御蔵島と本州の2カ所(淡路島と島根県)の株間に大きな差異がある、等がわかった。 同所的に存在する2集団の遺伝的構造が違う場合、生殖隔離が疑われる。そこで最終年の今期は、2系列が重なって分布する北海道根室市(HobetsuとU.S.)と淡路島(HobetsuとKobe)を重点に、集団の遺伝的構造解明の一環としてこの問題を調べた。結果、ダニ種に起因し哺乳類宿主に起因しない生殖隔離が確認された。 すなわち(1) Hobetsu 系列は Ixodes ovatus が、U.S.系列はI. persulcatusが媒介する。(2) U.S.の地理的3亜系はそれぞれ I.ricinus, I.persulcatus, I.scapularisの姉妹ダニが媒介、媒介効率は北米亜系とI.scapularisの組み合わせが最も高く、東アジア亜系とI.persulcatusは低いことが明らかになった。Kobe系列のベクター特定は出来なかったが、原虫系列とダニ種の対応や組み合わせによる媒介効率の違いなど、ヒトバベシア症の感染防御対策の基盤となる情報の一端がはじめて明らかになった。
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