多様な生物において様々な機能が報告されているオートファジーが、数年以上に及ぶ彼らの一生を数日間の吸血3回程度で生存しうるというマダニの特徴的な飢餓耐性を支えるために消化管上皮で機能していると考えた。研究協力機関において確立されているマダニの臓器別ESTデータベースをもとに、これまでオートファジーに関わっていると考えられる重要ないくつかのホモログの発現を確認してきた。また、他の動物で示されているのと同様にATG8 conjugation systemが未吸血期のダニにおいて機能していることが示唆され、未吸血期の中腸上皮細胞には脂肪やグリコーゲンの蓄積が認められ、消化器官である中腸の上皮細胞が貯蔵のためにも働いている可能性をも示してきた。そこで、これまでの消化器官としての中腸におけるマダニ自身の「生存基盤」となる消化のメカニズムの解明を目的としたオートファジーがマダニ類の飢餓耐性に関してどのような役割を果たしているかをテーマにした研究の継続と平行し、平成23年度以降は媒介原虫の通過関門となっている中腸においてオートファジーがどのように関わっているかを明らかにするための準備段階として、野外ピロプラズマ原虫感染マダニ個体の供試を視野に入れ、九州地方のウシ放牧地のマダニにおけるピロプラズマ症原因虫感染率の調査を予定していた。しかしながら、平成22年度に九州地方で発生した口蹄疫の影響によって野外調査の実施が困難であったため、残念ながら野外個体に関する研究を進展させることはできなかったが、平成23年度以降に延期して実施を開始する予定で改めて準備を進めている。一方、上記のこれまでの成果は節足動物におけるオートファジー研究の発展に大きな役割を果たしてきたことが評価され、査読付きながら研究成果に記載しているmulti-author reviewへの参加依頼を受けて、マダニにおける本成果を発表するに至った。
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