マダニは数年に及ぶ生活史の大半を未吸血・飢餓状態で過ごしうる、強靭な生命力を有する節足動物である。我々は、飢餓誘導性オートファジーに着目し、これがマダニの長期間の“飢餓耐性”を可能にしている一因であると仮説を立て、検証のための研究を遂行してきた。本研究では、フタトゲチマダニ(単為生殖系統)を材料として、オートファジー関連(ATG)遺伝子の単離を試み、これまでにHlATG3、HlATG4、HlATG6、HlATG8、およびHlATG12の各遺伝子を得た上で、リアルタイムPCR法による遺伝子発現解析において各HlATG遺伝子の発現は若ダニの未吸血期と変態期において増大し、脱皮後の未吸血成ダニではさらに増大することを明らかにしてきた。以上のように、オートファジー発現に関する一定の成果をあげ、このことはマダニの顕著な飢餓耐性に裏付けされた生存戦略に対するオートファジーの重要な位置づけを示唆する知見を提供するものであったと確信している。一方、本研究のもう一つの目的として、媒介原虫に対するオートファジーの役割を調べるために、1)牛ピロプラズマ病発生地域におけるマダニの原虫保有率を調べ、さらに2)オートファジー研究の材料として役立てることが出来るか、という予備調査を計画していた。これまでも報告してきたように、九州地域における口蹄疫の影響で野外調査の実施が遅れていたが、本年度は大分県の放牧地にて調査を実施し、マダニ個体およびその地域に放牧されている牛血液検体を採集した。現在、採集したマダニ個体および牛血液から、どの程度の保有・罹患率があるか鋭意原虫検出を試みているところである。これらの結果によって、実験的にマダニ個体に原虫を導入することの困難さを野外原虫保有個体を供試することで解決できる可能性がある。そのため、これらは纏まり次第、本研究助成の成果として本年中には報告できる予定である。
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