牛舎環境周辺に腐生性に存在するPrototheca zopfiiは、牛乳房炎の原因藻類であり、乳量の減少、白色の凝固物を含んだ希薄な乳汁の分泌を引き起こす。本藻類は、生化学的あるいは血清学的に少なくとも2つの遺伝子型(P. zopfii genotype 1およびgenotype 2)に分類される。ドイツ、イタリア、日本、ポルトガルおよびポーランドにおいて、プロトテカ性乳房炎から分離された株のほとんどが、genotype 2と同定されることから、同遺伝子型が乳房炎の主要原因藻類であるとされている。しかしながら、本邦の他酪農地域における本疾患についての分子疫学的調査は行われていない。そこで本研究では、genotype 1、2およびP. blaschkeaeの標準株および愛知県の分離株21株、さらに北海道臨床分離株3株、千葉県臨床分離株8株に対して、18S ribosormal DNA領域の遺伝子解析を行い、系統学的解析から、採材地域における分子疫学的調査を行った。18S ribosormal DNA領域のシークエンスによる臨床分離株の系統学的解析により、本邦の全ての臨床分離株がP. zopfii SAG2021T(genotype 2標準株)と同一のクラスターを形成し、genotype 1分離株のクラスターから独立することが明らかとなった。また全ての環境由来株(糞便、牛舎環境内汚水、水など)がP. zopfii SAG2063T(genotype 1標準株)と同一のクラスターを形成した。この結果から、本邦におけるプロトテカ性乳房炎は、各国と同様にP. zopfii genotype 2であることを示唆した。また、地域および採材場所による系統学的な変異は認めなかった。プロトテカ性乳房炎の感染経路、感染源の解明には、本藻類のさらなる分子疫学的調査が必要である。
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