心臓病の治療において弁置換術が必要になることがある。代用弁には機械弁や生体弁があるが、抗血栓療法や弁の取替えが必要になるため、再手術の負担や医療費の高額化が問題となる。そこで生体内組織形成技術を応用して自己体内で弁付き導管(バイオバルブ)を作成し、ビーグル犬の肺動脈弁位への弁置換を行った。今年度はビーグル犬の背側に埋入して作成したバイオバルブの物理的特性を調べ、肺動脈弁位に移植した。移植後は超音波診断装置にて弁の動きを確認し、カテーテル検査で右心室機能を評価した。バイオバルブ径は固定後に10mmまたは14mmであった。9頭中3頭が術中または術後に死亡し、原因は出血による術中死、免疫拒絶反応、バルサルバ洞部の破裂であった。6頭では術後一日目の経胸壁エコーで弁葉の良好な可動性が認められたが、術後三ヵ月では狭窄は2頭で軽度に、4頭で重度に増加した。心臓造影検査では重度狭窄例において近位吻合部における狭窄が認められた。移植三ヵ月後における組織学的所見として、軽度狭窄の2頭では1頭で弁葉の消失がみられたものの、両者ともバイオバルブ血管部の両端から内皮化およびエラスチン形成を伴う内膜の新生が起こり、良好な自己化が認められた。移植後に認められた狭窄は、バイオバルブ径のサイズや固定法ならびに移植方法に起因すると考えられ、逆流の原因としては鋳型の設計や狭窄による圧負荷の増大が考えられた。三ヵ月間弁の可動性を良好に維持することができれば、レシピエント由来細胞による置換と組織の強化が期待される。今後は、移植後の狭窄と逆流を軽減するためにこれらの原因に対する対策が必要である。
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