研究概要 |
本研究では水域汚染と魚病発生との因果関係を解明する手掛かりを得るため,2価の重金属イオンを介する電荷的引力によって負に帯電した魚病ウイルス(MABV)と植物プランクトン(キートセロスネオグラシーレ,以下はキートセロス)が付着し,その付着物を動物プランクトン(S型ワムシ,以下はワムシ)が摂餌して取り込むことにより,これら餌料生物を介してMABVが伝播されるのかどうかを実験的に検討した。キートセロスにおける重金属の付着実験では,培養液中に代表的な各種重金属塩を添加して培養後,付着した重金属量を測定して検討した。キートセロスにおけるMABVの付着実験では,培養液中にMABVと各重金属塩を添加して培養後,付着したウイルス量を測定するとともに,キートセロスを走査型電子顕微鏡で観察して検討した。ワムシにおけるMABVの取込み実験では,MABVと各重金属塩を添加して培養したキートセロスをワムシに摂餌させたのち,取込まれたウイルス量を測定して検討した。その結果,キートセロスにおける重金属の付着が確認された。各重金属塩を添加して培養すると,キートセロスに付着するウイルス量が顕著に高くなり,電子顕微鏡観察によりキートセロスの細胞表面における微粒子の付着が確認された。一方,ワムシに取り込まれたウイルス量はあまり多くなかったが,MABVの付着したキートセロスを摂餌したワムシはMABVを取り込むことが確認された。これらの結果から,餌料生物を介するMABVの伝播が起こり得るものと思われる。したがって,重金属による水域汚染は,魚病ウイルスの感染を助長する要因となる可能性が高い。今後は,MABVが植物プランクトンや動物プランクトンを介して魚介類に感染するのかどうかを検討する必要がある。
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