研究概要 |
本研究では,水域汚染と魚病発生との因果関係を解明する手掛かりを得るため,"金属元素の電荷的引力に基づく微生物の付着機構"が関与した感染機構が成立するのかどうかを検証する。昨年度には,2価の重金属イオンを介する電荷的引力によって負に帯電した魚病ウイルス(MABV)と植物プランクトン(キートセロスネオグラシーレ,以下はキートセロス)が付着し,その付着物を動物プランクトン(S型ワムシ,以下はワムシ)が摂餌することによって,MABVがワムシに取り込まれることが確認された。本年度は,ウイルスの付着した植物プランクトンを貝類が摂餌することにより,MABVが餌料生物を介して貝類に感染するのかどうかを検討した。まず,キートセロスの培養液中にMABVと各重金属塩を添加して培養液のpHと温度を変えて培養後,キートセロスに付着したウイルス量を測定した。その結果,MABV感染症が流行する海面養殖漁場の一般的な環境条件であるpH8.0および水温20℃の培養条件下においても,キートセロスにおけるウイルスの付着が確認された。次に,MABVと重金属塩を添加して培養したキートセロスを二枚貝(アコヤガイ)に摂餌させたのち,消化盲嚢を含む内臓塊からMABVを分離する感染実験を行った。その結果,アコヤガイに肉眼的異常は観察されなかったが,キートセロスを摂餌させたアコヤガイの33~40%からMABVが分離され,アコヤガイにおけるMABVの感染が確認された。以上の結果から,2価の重金属イオンを介する電荷的引力は,貝類におけるMABVの感染機構に関与している可能性が示唆される。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに,金属元素の電荷的引力によって,餌料生物を介するマリンビルナウイルス(MABV)の伝播が起こり得ることが確認されたことから,重金属による水域汚染は,魚病ウイルスの感染を助長する要因となる可能性が高いことが示唆された。今後は,MABVが植物プランクトンや動物プランクトンを介して魚介類に感染するのかどうかを詳細に検討する必要がある。6
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