本年度の研究では,ワムシにおけるマリンビルナウイルス(MABV)の取り込み効率を最も促進させる効果のあった重金属塩ZnCl2を用いて,人為的にMABVに汚染させたワムシをヒラメ仔魚に摂餌させる伝播実験を行い,MABVが伝播した動物プランクトンを魚が摂餌することで,MABVが魚へ伝播するのかどうかを実験的に検討した。実験では,ウイルスの伝播源として,MABVを人為的に汚染させたキートセロス,ワムシおよびキートセロスとワムシの両者のそれぞれを使用するキートセロス汚染実験,ワムシ汚染実験,およびキートセロス+ワムシ汚染実験の3つを行った。ウイルス伝播源となるプランクトンを用いて各ウイルス汚染餌料(ワムシ)を作製し,ヒラメ仔魚群へ毎日2回,10日間給餌した。その後,RT-PCRおよびNested-PCR検査を行い,ヒラメ仔魚に取り込まれたMABVの遺伝子の検出を試みた。その結果,いずれのウイルス汚染餌料を給餌したヒラメ仔魚群からもMABV遺伝子が検出された。検出率は,キートセロス汚染実験では重金属塩の添加の有無にかかわらず20%,ワムシ汚染実験では重金属塩を添加した実験区で7%,および添加しなかった実験区で3%,ならびにキートセロス+ワムシ汚染実験では重金属塩を添加した実験区で24%であり,キートセロス+ワムシ汚染実験において最も高い値が見られた。また,重金属塩を添加して作製された餌料を給餌したヒラメ仔魚群は添加しなかったそれと比較して給餌後の早期にウイルス遺伝子が検出される傾向が見られた。これらのことから,MABVは餌料生物を介して魚へ伝播すること,およびその伝播には重金属の電荷的引力が関わっていることが明らかとなった。
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