本研究は、硫黄酸化細菌に存在する無機硫黄化合物を基質とした酵素、すなわち「硫黄化合物を消化する酵素」について詳細な解析を行い、この様な細菌の硫黄代謝に対する理解を深めるとともに、「無機硫黄の酵素化学」という新たな学問領域への知見の蓄積を目的として行われている。 平成22年度は、鉄硫黄酸化細菌の一種Acidithiobacillus ferrooxidansを研究の対象とし、硫黄化合物を代謝する酵素であるテトラチオン酸ハイドロラーゼについて詳細な研究を行った。本酵素はAcidithiobacillus属細菌に特徴的で、他の生物には類を見ない新規な一次構造を有している。また本酵素は、無機硫黄化合物のテトラチオン酸を酸性条件下で、補酵素などを必要とせず加水分解する反応を触媒する。この様な反応が、酵素内のどの様なアミノ酸残基が関わって行われるのかは学術的に極めて興味深く、基質のテトラチオン酸分子内のジスルフィド結合を加水分解によって切断するメカニズムの解明は、疎水的な硫黄分子の水和という化学工学・材料工学的な応用面からも、その重要性が期待される。 本研究代表者によって、本酵素をコードした遺伝子が同定され、大腸菌による組み換え発現が既になされたが、発現した組み換えタンパク質は、活性を示さない封入体を形成した。これを基にして、本研究課題によりrefolding法による活性型酵素の獲得に成功した。このrefolding条件を検討したところ、通常報告されている中性条件でなく、本酵素は酸性条件下でrefoldingさせることで活性型酵素になることを解明した。この現象は、好酸性細菌に由来する本酵素の生理的特性を反映した興味深い結果であり、他の好酸性菌由来の酵素(タンパク質)のrefoldingにも応用可能な、極めて重要な知見を提供した。さらにこの様にして得られた活性型の本酵素を、カラムクロマトグラフィーなどを用いて高度に精製し、結晶化を試みた。この結果、微小な本酵素の結晶を獲得することに成功した。今後は結晶化条件の最適化を行い、X-線結晶構造解析を行うことで、本研究の目的達成のための大きな知見を得られることが期待できる。
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