研究概要 |
窒素化学肥料投与が地下水ヒ素汚染に与える影響について、バングラデシュ・ガンジスデルタを対象にして調査検討した。本地域で堆積物を採取し、ヒ素と窒素の含有量を調べたところ、ピート層堆積物中のそれらの濃度は各堆積物中で最も高かった。地下水の高いヒ素濃度(最高1,480μg/L、これはWHOの飲料水水質基準値10μg/Lの148倍)は、酸化還元電位が低く、かつアンモニウム態窒素濃度が高い場合に検出された。ピート層と地下水中の窒素の供給源は、窒素安定同位体比分析によれば、窒素化学肥料あるいはその混合物であった。この結果より、同肥料の投与によって作られた地下水・堆積物中の窒素濃度の高い環境が微生物の活動を活発にし、これにより地下水が還元的状態になったと考えられた。そしてその後、堆積物から地下水へのヒ素溶出が活発になったと推定された。 微生物活動がピート層からのヒ素溶出に与える影響を明らかにするため、室内で現地を模した実験を行った。本実験はまだ継続中であるが、これまでのところ、微生物活動によりもたらされる窒素循環が、ヒ素溶出と密接に関わっている傾向が認められた。 また、ベトナム紅河デルタで、地下水のヒ素濃度と酸化還元電位、pHの関係を考察した。ここでは、海岸地区と内陸地区を比較した。採水した地下水の深さは、内陸地区では100m以下であったが、海岸地区では最深150mであった。地下水の最大ヒ素濃度は、内陸および海岸地区でそれぞれ150および220μg/Lであった。内陸と海岸各地区でヒ素濃度、酸化還元電位、pHのそれぞれには、統計的な有意差はなかった。両地区とも、酸化還元電位は低く、堆積物から地下水へのヒ素溶出は還元溶出により起こっていると推定された。pHのヒ素濃度への影響は、ヒ素濃度が高い場合(>100μg/L)に限って認められ、この場合海岸地区の方が内陸地区に比べpHが高く、ヒ素濃度も高いという結果であった。
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