今年度は、オオムギP23k遺伝子過剰発現イネの実生や成熟個体の葉を用いてβ-グルカン含量の変化に着目した形質評価を行うと共に、新たに作成した抗体を利用した免疫沈降法とGST-プルダウン法でP23k相互作用因子の単離同定を試みた。 まず、前者の葉を用いた形質評価については、P23k の発現の有無にかかわらずβ-グルカン含量が有意に変化することはなかった。その理由として、(1)イネの葉では種子と異なり一定レベルのβ-グルカンが合成されているためP23kの発現に伴う効果が現れなかった可能性が高い。(2)P23kと共同でβ-グルカンの合成過程に働く未知因子が葉では発現しておらず、P23k単独の発現誘導では効果が確認できない。等が考えられたが、その検証には至らなかった。 次に、免疫沈降法とGST-プルダウン法でP23k相互作用因子の単離同定を試みた。その結果、GST-プルダウン法においてP23k相互作用因子の候補にβ-アミラーゼを同定することができた。β-アミラーゼは発芽種子のデンプン分解に関わる重要な酵素であり、且つβ-グルカンの基質であるUDP-グルコースの供給には欠かせない酵素である。従って、β-グルカンの合成過程におけるP23kの機能は、β-アミラーゼと共にβ-グルカン合成に必要な基質UDP-グルコースの供給促進である可能性が示唆された。P23kは以前から発芽種子で過剰発現していることがわかっていたが、デンプン分解に関わっているとすればその発現様式も理解できる。現在、酵母ツーハイブリッド法などを利用して、2つの因子の結合解析を進めている。以上のことから、本研究では仮説(P23kはCslFの補助因子としてβ-グルカンの合成に関わる)の証明には至らなかったが、P23kがβ-グルカンを効率的に合成するための基質の供給に関わっている事を示唆する重要且つ新たな知見を得るに至った。
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