研究課題
本研究では環境浄化にかかわるさまざまな細菌に関して、分解機能の進化と退化に焦点をあて、分生物学的手法によりその実態を明らかにすることを目的とする。平成23年度は以下の項目について検討した。1.水俣湾より分離した水銀耐性海洋細菌Pseudoalteromonas planktis M-1からのmerB遺伝子クラスターのクローン化と解析先にM-1から無機水銀還元酵素遺伝子merAと関連遺伝子をクローン化し解析したが、平成23年度は有機水銀のC-Hg結合を切断する酵素(mercurial lyase)遺伝子merB及び周辺領域をクローン化し解析した。merB遺伝子の上流には逆向きに水銀化合物の取込み、運搬を担うmerP、merTなどの複数の遺伝子が存在したが、merA遺伝子は存在しなかった2.ビフェニル/サリチル酸代謝遺伝子をコードする接合トランスポゾンbph-salエレメントの安定性Pseudomonas putida KF715株から発見さねたbph-salエレメントは当初、きわめて高頻度にKF715株からP. putida KT2440株やP.putida AC30株などに接合伝達により転移していたが、繰り返し培養することでその転移頻度は急速に低下した。この現象はbph-salエレメントを獲得したKT2440株やAC30株でも同様であった。接合伝達不能株のbph-salエレメントの構造は各種の欠失が認められた。これらの欠失株からbph遺伝子群のみ、sal遺伝子群のみ、その両方を欠失した株が得られた。3.クロロエテン脱塩素化偏性嫌気性菌の各種クロロメタンによる生育阻害脱ハロゲン呼吸細菌Desulfitobacterium hafniense Y51株はテトラクロロエテンをcis-ジクロロエテンへ脱塩素化し生育する。しかしこの生育は1μMの極微量のクロロフォルムにより著しく阻害される。この生育阻害は四塩化炭素でも同様に起きるが、ジクロロメタンでは起きないことが明らかとなった。さらに興味あることに脱ハロゲン遺伝子を欠失した株ではいずれのクロロメタンでも生育阻害が生起しないことが判明した。
2: おおむね順調に進展している
これまでに代表的な環境汚染物質分解菌についてその分解遺伝子をクローン化、解析、それぞれの遺伝子の機能を明らかにしてきたが、本研究ではそれらの遺伝子の動的な再編成に焦点をあてた。その結果、想像していた以上に分解遺伝子クラスターがさまざまな要因により再編成される現象を明らかにすることができた。
環境汚染物質の分解遺伝子は予想を上回る頻度でその遺伝子群を再編成、あるいは不要な遺伝子を除去している。進化の過程では外からの遺伝子の獲得もあるが、複数の遺伝子をリクルートしたり、必要な遺伝子に積極的に変異を導入して分解機能を高めている。これらの過程をより動的に、できれば可視化しながら把握したい。
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