病原体"プリオン"が感染細胞から近隣の非感染細胞へ細胞間を伝播するメカニズムは未解明である。本研究では、脳内でのプリオン拡散に重要な役割を持つミクログリアに注目し、ミクログリアで多く発現しているArp受容体ファミリーの1つP2×7受容体とプリオン放出機構との関連性に焦点を絞って検討する。本年度は、培養ミクログリアに異常プリオン蛋白質(PrP^<Sc>)を貧食させた細胞モデル系を作製し、P2×7受容体活性化に伴うPrP^<Sc>放出及びそのメカニズムについて解析した。不死化ミクログリア細胞株(MG6)にマウススクレイピーME7株脳乳剤を1時間暴露後洗浄し、1晩培養した後PrP^<Sc>放出実験に用いた。培養上清中のPrP^<Sc>はseprion ELISA法を用いて検出した。P2×7受容体アゴニストであるATPを用いてPrP^<Sc>貪食ミクログリアを刺激すると緩衝液中へのPrP^<Sc>放出が観察された。P2×7受容体機能を阻害するMg^<2+>を緩衝液から除去すると、さらに顕著なPrp^<Sc>放出が観察された。この放出はCa^<2+>除去およびP2×7受容体アンタゴニスト(oxATP)添加により減弱したことから、P2×7受容体活性化に伴う細胞内へのCa^<2+>流入が、Prp^<Sc>放出に関与すると考えられた。Prp^<Sc>を含む膜小胞には誘導性の放出機構に加えて、定常レベルでの持続的な放出機構の存在が推測される。そこで、無刺激のPrp^<Sc>貪食ミクログリアをP2×7受容体アンタゴニストのみで処理することによって、定常的なPrP^<Sc>放出機構へのP2×7受容体の関与について調べた。その結果、oxATP添加により定常的なPrp^<Sc>の放出量が低下することがわかった。よって、定常レベルでの持続的なPrP^<Sc>放出機構にもP2×7受容体の関与が示唆された。
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