研究課題
病原体"プリオン"が感染細胞から近隣の非感染細胞へ細胞間を伝播するメカニズムは未解明である。本研究では、脳内でのプリオン拡散に重要な役割を持つミクログリアに注目し、ミクログリアで多く発現しているATP受容体ファミリーの1つP2X7受容体とプリオン放出機構との関連性に焦点を絞って検討する。本年度はプリオン持続感染ミクログリア細胞(ScMG20)からのP2X7受容体活性化による異常プリオン蛋白質(PrP^<Sc>)放出について検討した。P2X7受容体アゴニストであるATPでScMG20細胞を刺激した後、培養上清中のPrP^<Sc>をseprion ELISA法を用いて検出した。ところが、ATP刺激後も有意なPrP^<Sc>放出は検出されなかったことから、昨年度示した貪食されたPrP^<Sc>と異なり、ミクログリアで持続感染しているPrP^<Sc>はP2X7受容体活性化によって積極的に放出されないことが分かった。一方、ScMG20細胞をP2X7受容体アンタゴニスト(A438079、Oxidized-ATP,Brilliant blue G(BBG))で処理したところ、BBGによってのみ持続感染しているPrP^<Sc>量の有意な減少が観察された。これはBBGによるPrP^<Sc>量の減少がP2X7受容体を介した効果では無い可能性も示唆している。さらに、試験管内でのPrP^<Sc>増幅実験を行ったところ、BBGにはPrP^<Sc>複製を直接阻害する効果は無かったことから、細胞内でのPrP^<Sc>増幅に関わるメカニズムがBBG処理で影響を受けることによってPrP^<Sc>量が減少したと考えられた。
2: おおむね順調に進展している
計画書に従って実験が進んでいる。当初の予測とは異なるデータも得られたが、P2X7受容体アンタゴニストであるBBGによるPrP^<Sc>蓄積抑制という新しい知見も得られた。
予想に反して、プリオン持続感染ミクログリア細胞ではP2X7受容体を介した積極的なPrP^<Sc>放出が起きないことが明らかになり、ミクログリアに貪食されたPrP^<Sc>とは細部内での挙動が異なることが示唆された。一方でP2X7受容体アンタゴニストのBBGにはPrP^<Sc>蓄積を抑制する効果があることが明らかになり、今後は計画書に従ってその作用機構の解明とマウスのプリオン病発症に対する効果について検討を進める。
すべて 2011
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J. Neurochem
巻: 117 ページ: 712-723
DOI:10.1111/j.1471-4159.2011.07240.x