研究概要 |
医薬品の構造が複雑化している今日、目的の生物活性化合物を短工程で効率的に合成する方法論の開発は重要な研究課題である。報告者は、触媒的連続環化反応を基盤とする生物活性天然物の合成研究を行い、平成22年度に以下の成果を得た。 (1) パラジウム触媒を用いたアレンの連続環化反応によるErgotアルカロイドの不斉全合成 Ergotアルカロイド類は、リゼルグ酸をはじめとする数多くの生物活性天然物が報告されている。同じ骨格を有する医薬品として、ペルゴリド、プロモクリプチンなどが知られており、Ergotアルカロイド骨格の天然物型創薬テンプレートとしての潜在能力が期待されている。報告者は、平成22年度の本研究において、アレンの連続環化反応を基盤とする不斉全合成研究を行った。パラジウム触媒とヨウ化インジウムを用いたホルムアルデヒドとの還元的カップリング反応により、光学活性エチニルアジリジンを2-エチニル-1,3-アミノアルコールへと変換した。NHK反応によるインドールユニットとのカップリング反応、Alpine-Boraneを用いた不斉還元、Myersアレン合成等を経て、環化前駆体アレンを合成した。得られたアレンに対してパラジウム触媒を用いた連続環化反応を適用し、リゼルグ酸及び関連天然物の不斉全合成を達成した(J. Org. Chem. 2011, 2072)。 (2) ハロアレンの連続環化反応によるJaspine Bの不斉全合成と立体分岐的合成への展開 Jaspine BはP388白血病細胞、HT29大腸癌細胞やMEL28悪性黒色腫細胞などの細胞株に対してμM以下の濃度で細胞毒性をスフィンゴ脂質として近年注目されている。報告者は、構造活性相関研究を指向した分岐的な合成法の開発を検討した。その結果、単一の鍵合成中間体からJaspine Bの全ての立体異性体を分岐的に合成することに成功した(J. Org. Chem. 2010, 3843)。
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