医薬品の構造が複雑化している今日、目的の生物活性化合物を短工程で効率的に合成する方法論の開発は重要な研究課題である。報告者は、触媒的連続環化反応を基盤とする生物活性天然物の合成研究を行い、平成23年度に以下の成果を得た。 1.アレンの連続環化反応によるErgotアルカロイドの不斉全合成 前年度までに開発したErgotアルカロイド骨格一挙構築反応を基盤として、Sharpless不斉エポキシ化を利用したErgotアルカロイドの不斉全合成を検討した。その結果、2-アルキニル-3-インドリルエポキシドの位置選択的還元反応に成功し、リゼルグ酸の不斉全合成を達成するとともに、数種の類縁体を得た。 2.ハロアレンの連続環化反応によるJaspine Bの不斉全合成と立体分岐的合成への展開 Jaspine BはP388白血病細胞、HT29大腸癌細胞やMEL28悪性黒色腫細胞などの細胞株に対して強い細胞毒性を有するスフィンゴ脂質として近年注目されている。報告者は、前年度に開発したJaspine Bの全立体異性体を分岐的合成法を基盤として、立体選択的アセトキシアリル化とクロスメタセシスを鍵とした多様性指向型合成経路の開発に成功した。 3.多環式インドール・イソキノリンアルカロイド型骨格の構築 前年度に引き続き、Quinocarcinの不斉全合成研究を行った。ブロモアレンの分子内アミノ化反応により立体選択的に合成したアルキンを薗頭反応によりベンジルアミン成分と連結し、金触媒を用いた分子内ヒドロアミノ化反応によるイソキノリンアルカロイド骨格の構築を検討した結果、基質構造の最適化により6-endo-dig選択的環化反応を実現し、Quinocarcinの形式全合成を達成した。 4.天然物型ドラッグライク化合物ライブラリーの構築と創薬展開 本研究により得られた天然物型化合物により、当研究室所有の化合物ライブラリーの充実化を行った。現在までに、天然物型ドラッグライク化合物を含め、数千化合物の登録を完了している。
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