当研究室では細胞表層における複合糖質糖鎖の機能解明の一助として、下等動物より得られる糖脂質や糖タンパク質糖鎖の化学合成を目指してきた。近年においては寄生虫の持つ糖鎖を化学的に合成することで、寄生虫感染患者に対する診断薬への応用を模索している。今年度は表題である『寄生虫感染診断薬を目指した糖鎖抗原の化学合成』の一環として1.エキノコックスE. multilocularis由来の糖タンパク質糖鎖の合成及び、2.マンソン住血吸虫由来糖脂質の合成を行った。1について昨年度までに、糖鎖のアノマー位を推定して、かつ、還元末端を2-トリメチルシリルエチル基で保護した6種類のオリゴ糖鎖を合成し、患者血清に対する抗原性を調べてきたが、顕著な抗原性を得ることはできなかった。本年度は、ELISAの感度を上げるべく還元末端にビオチンタグを結合させ、また、他機関の研究によりアノマー位の立体が判明したことより、5種類のオリゴ糖鎖を合成した。その結果、Galα1-4Galβ1-3GlcNAc構造に顕著な抗原性を有することが判明し、その感度は素抗原と同等以上であったことから、本化合物に合成糖鎖抗原としての有用性を見出した。さらにGalα1-4Galの二糖構造は、多くの寄生虫感染患者の血清と弱いながらも相関性があり、これまで糖鎖構造研究の報告のない寄生虫もこの構造を持つことが推察できた。一方、2の研究においては目的としてきた6種類の糖脂質の全合成と、6種類の非還元末端側オリゴ糖鎖すべての合成を完了した。前者の全合成のうち1つは、その非還元末端にpseudo Le^Y構造を有し、これまで自然界より見出されたことのない新規な糖脂質であり、機能の点から興味深い。また、後者は、フコースを多く含有する糖鎖構造を有しており、免疫調節物質としての可能性に期待が持てる。
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