研究概要 |
申請者は,昨年度アキラルなN-(2-teri-butylphenyl)-2-alkynylanilineの触媒的不斉5-エンドヒドロアミノ環化をエタノール溶媒中(R)-SEGPHOS-PdCl2触媒存在下行なうと,炭素-窒素不斉軸を有するアトロブ異性N.(ortho-teri-butylphenyl)indole誘導体がエナンチオ選択的(83%eeまで向上)に得られることを見いだしている.今年度は,反応のエナンチオ選択性の向上とその発現機構の解明,ならびに軸不斉アミンの触媒的不斉合成について検討を行なった. まず,本反応において,パラトルエンスルホン酸(TsOH)を添加すると,反応が大きく加速されることを見いだした.これにより,種々の溶媒中での反応が可能となり,THF中での反応が最も良好なエナンチオ選択性を示すことを明らかにした,例えば,エタノール溶媒中で行なったある基質の不斉収率60%ee,83%eeは,THF中ではそれぞれ74%ee,88%eeまで向上した. さらに,アルキン上の置換基効果を詳細に検討することにより,アルキン上フェニル基の不完全なねじれによるエナンチオ選択性発現機構を考案した.すなわち,(R)-SEGPHOSの不斉情報は,アルキン上のフェニル基の不完全なねじれによって生じる動的軸不斉を経由して新たに構築される炭素-窒素不斉軸に効率的に伝達されるため(キラルリレー),比較的高いエナンチオ選択性が発現するものと考えた. また,触媒的不斉分子内芳香族アミノ化反応により高エナンチオ選択的に得られたアトロブ異性ラクタムを利用して,光学活性軸不斉環状アミンの合成に成功した.得られた軸不斉アミンの回転障壁は軸不斉アニリドやラクタムと比較して.大きく低下していることも、明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度は,軸不斉インドールの触媒的不斉合成におけるエナンチオ選択性発現機構の解明と,新規な軸不斉環状アミンの触媒的不斉合成を目的に検討を行なった.その結果,研究結果の概要に記述したように,フェニル基の不完全なねじれによって生じる動的軸不斉に基づくエナンチオ選択性の発現機構を見いだした.また,軸不斉アミンの触媒的不斉合成に成功し,またその回転障壁も明らかにした.このように,交付申請書に記載した年度初めの研究計画はほぼ実現できたものと考えている.
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今後の研究の推進方策 |
まず,上述した結果を論文としてまとめ,できるだけ速やかに学術誌に投稿する.次いで,軸不斉インドールの触媒的不斉合成におけるエナンチオ選択性のさらなる向上を目指し検討を行なう.また,軸不斉インドールや環状アミン生成物の構造や不斉軸の安定性について,分子軌道計算を用いて理論的に考察する.さらに,軸不斉インドールや環状アミン生成物を利用した新規な機能性分子の創製や,新たな非アミド型炭素窒素軸不斉化合物の触媒的不斉合成等について検討を行なう.
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