研究概要 |
シクロプロパン環やシクロプタン環のような小員環は,高度に歪んだ構造であるため,角度歪みとねじれ歪みともに大きく環歪みをもっている。この歪みを解消するため,小員環は開裂しやすく,多種多様の反応性を有しており,有機合成化学上重要な化合物である。我々は,クマリン誘導体から得られるシクロプロパン誘導体やシクロブタン誘導体の環開裂による歪み解消をドライビングフォースとする興味深い骨格変換反応を見出し,これら反応により得られた化合物を天然物の合成へと応用しその有用性を明らかにしている,1、3位に電子求引性基を有するクマリン体から誘導されるシクロプロパン環およびシクロブタン環を有する化合物を出発原料とし、その環開裂を鍵反応として熱帯雨林地帯に生育するコショウ科植物から単離されたアダンクチンBの全合成経路を確立した。本年度は、合成経路の精査を行い報文を作成・投稿し掲載された(雑誌論文2)。2、天然物ではないがアダンクチンBの8位イソプロピル基のない8-デイソプロピルアダンクチンBの全合成経路を確立し、さらにその合成経路を精査し、報文を作成・投稿し掲載された(雑誌論文4)。3、クマリン体から誘導されるシクロブテン体を出発原料としその環開裂により2H-1-ベンゾピラン体を得る反応を鍵反応としてマメ科植物(マザーオブカカオ)から単離されたロテノイド化合物であるグリリシドールの全合成に取り組み、合成の最終段階まで進行した。4、3位に電子求引性置換基をもつクマリン誘導体とスルポキソニウムメチリドとの反応により得られるシクロペンタ[b]ベンゾフラン誘導体のバイヤー-ビリガー酸化による環拡大反応を検討した。その結果、2H-ピラノ[2,3-b]ベンゾフラン誘導体が得られることを見出した。
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