次世代の有機合成化学における最重要課題の一つとして、環境調和型有機合成反応の開発があげられる。本研究は、環境重視型合成反応の開発として、合成プロセスを効率化する連続反応に着目し、有機合成を刷新する手法の確立を目指している。特に、ラジカル反応を基盤とした研究においては、両末端に異なるラジカル受容体を有する基質のカスケード型連続結合形成反応を中心として研究を推進している。平成22年度は、求電子的なperfluoroalkylラジカルを用いたカスケード型反応を詳細に検討した。その結果、電子的に不利な過程(極性が不一致)を経由するカスケード型反応が進行することを見出した。これは、求電子的なperfluoroalkylラジカルが、電子不足オレフィン部と反応することにより開始する反応で、電子的に不利と考えられる反応である。そこで、反応基質に、電子不足ラジカル受容体と電子豊富ラジカル受容体を導入し、競争する二つの反応経路を調べた。その結果、求電子的な性質が増大する2級perfluoroalkylラジカルを用いると、電子的に不利な反応が進行しにくくなること、また、電子不足ラジカル受容体の末端に置換基を導入すると、電子的に不利な反応が進行しにくくなることを確かめた。次に、本反応を不斉反応に展開するために、不斉リガンド存在下での反応を検討した。その結果、キラルなルイス酸を用いた場合に、反応がエナンチオ選択的に進行するのみでなく、電子的に不利な過程を経由するカスケード型反応が進行しやすくなることを見出した。また、光触媒の研究としては、光触媒酸化チタンを用いたカルボニル化合物の還元反応を検討し、様々なケトン類の還元反応が効率良く進行することを確かめ、速度論的な解析から、その反応機構を考察した。さらに、歪み化合物ベンザインの高い反応性に着目し、歪みエネルギーを駆動力とした連続反応の開発研究に取り組んでいる。平成22年度は、ベンザインとホルムアミドから生成する反応中間体を、比較的求核力が弱い活性メチレン化合物で捕捉する研究を行い、3成分連結反応の開発に成功した。
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