悪性脳腫瘍治療のためのナノ粒子の設計に関しては、腫瘍細胞に高発現する葉酸レセプター(FR)結合サイトとの強力な会合能を有する葉酸7分岐修飾βシクロデキストリン(per-FOL-β-CD)の2級水酸基にジスルフィド結合を有するスペーサーアームを導入し、その末端に抗がん剤であるドキソルビシン(DOX)を結合させたper-FOL-β-CD/DOX結合体(per-FOL-β-CD-ss-DOX)を合成し、脳腫瘍細胞に対するターゲティング能の評価を行った。per-FOL-β-CD-ss-DOXはエンドサイトーシスによって細胞に取り込まれることを明らかとし、これによりDOX耐性がん対する治療効果が期待できた。また、葉酸受容体をほとんど発現していないA549に対しては弱毒性しか示さなかった。これにより、正常細胞への毒性も低いと考えられた。 結核治療のためのナノ粒子の設計に関しては、新規抗結核候補薬として期待されるが水溶性がきわめて高く製剤化が困難なOCT313のナノ粒子化を検討した。OCT313は貴重なため水溶性モデル薬物として蛍光物質のカルセインを用いた。ダブルエマルション法によりS/O型のミセル様ナノ固体粒子の設計を試みた(Solid)。特殊なノズルを搭載したスプレードライヤーを用い、マンニトール(MAN)のマイクロ粒子中にSolidナノ粒子が分散した経肺投与粒子の設計に成功した。このSolid/MAN粒子をラットに経気管投与後、肺胞マクロファージ(Mc)を単離・回収し、Mcの薬物取り込みを検討したところ、Solid/MAN粒子の場合、薬物(肺内では溶液となる)と比較して顕著に多く取り込まれることが明らかとなった。これは、疎水性界面活性剤に被覆されたカルセインが粒子として認識され、貪食されることで高濃度でMcへ送達されたためと考えられる。
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