仮想的水和リガンドドッキング法では、リガンドの水素結合性官能基を仮想的水和化する必要があった。しかしながら、全通りの組み合わせの数だけ、仮想的水和リガンドを作成しドッキングするのは、計算時間がかかる。そこで、タンパク質-リガンド複合体形成において架橋水が関与する場合のリガンド側フラグメントやタンパク質側サブサイトについての情報を利用して、作成するべき仮想的水和リガンド数の削減を試みた。 蛋白質のリガンド結合サイト内で水素結合している水分子を検出するプログラムを作成し、蛋白質-リガンド複合体X線構造データベースPDBbindに対して検索を行った。蛋白質-リガンド間を架橋している水分子を架橋水、リガンドから4Å以内だが蛋白質とのみ水素結合している水分子を水和水として定義した。そして、架橋水および水和水から4Å以内のアミノ酸残基を水結合サブサイトして検出した。 得られた水結合サブサイト同士をサブサイト重ね合わせプログラムSUPERPOSE_SITEを用いて重ね合わせアミノ酸残基の空間配置の類似性を計算した。各水結合サブサイトについて、出現頻度を集計し、5回以上検出されるものを水分子結合モチーフとして同定した。そして、高確率で、架橋水を持つものを架橋水結合モチーフ、水和水を持つものを水和水結合モチーフと定義した。 PDBbind中のcoreセット(216蛋白質-リガンド複合体)について検索を行った結果、数十個の水分子結合モチーフを見出した。その内、架橋水結合モチーフは3個、水和水結合モチーフは1個存在した。残りは、架橋水/水和水のどちらも取りうる水分子結合モチーフだった。このデータを活用することにより、ドッキングしたい結合サイト内における架橋水の最小・最大数が分かるため、仮想水和化するリガンド官能基の数を予め決定でき、計算時間を短縮できる。
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