研究課題
本研究課題では、アポリポタンパク質のアミノ酸変異や遺伝子多型による脂質異常症やアミロイドーシス、神経変性疾患などの発症機序を、タンパク質のフォールディング構造異常という物理化学的観点から解明することを目的とする。平成23年度は、血中や脳内でのコレステロール代謝調節異常を引き起こすアポE4アイソフォームをターゲットとして、野生型であるアポE3との脂質結合構造の差異の検出を行った。得られた成果を下記に示す。1.アポEタンパク内への環境感受性蛍光プローブであるピレンやアクリロダン分子を導入するため、新たな変異体の設計を行った。アポEのN末とC末ドメインにおける標識位置として、94番目のセリンと264番目のトリプトファン、290番目のセリン残基を選択し、それぞれをシステイン残基に置換した変異体を作製した。いずれの変異によってもアポE構造に大きな摂動を与えていないことが確認された。2.脂質結合に伴うピレン蛍光強度変化のリアルタイム解析や、分子内トリプトファン残基-アクリロダン間の蛍光巽鳴エネルギー移動測定などから、人工脂質粒子やHDL粒子に対するアポEの結合挙動の解析を行った。その結果、HDL2粒子上でのアポEのN末ドメインコンフォメーションが、アポE3とアポE4間で異なることが示唆された。3.さらに詳細な結合構造の解析に向けて、アポE分子内トリプトファン残基の位置をコントロールした変異体の設計に着手した。
2: おおむね順調に進展している
タンパク質構造に大きな摂動を与えることなく、アポE分子内に環境感受性蛍光プローブを導入することに成功した。この成果により、これまで直接的な観察が不可能であったアポEの脂質粒子結合挙動のリアルタイム観測が可能となり、アポEアイソフォームによるリポタンパク結合構造の異常と脂質代謝異常との相関解析のための基盤整備が大きく前進した。
本研究課題の目的の一つである、アポEアイソフォーム間での脂質結合構造の差異を検出するための物理化学的手法の基盤整備にメドがついたため、来年度以降は、培養細胞を用いた変異体やアイソフォーム間での細胞コレステロール代謝機能の比較など、アポリポタンパク質の構造作用相関の統合的解析を行っていくための実験系の構築を開始する。
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