CYP2C9の遺伝子多型のうち、日本人で見出される*30(Ala477Thr)は、ロサルタンによる抗高血圧作用を消失させることから、この多型によってもたらされる基質依存性の活性変化のメカニズムを立体構造解析の面から解明することは、多型の影響を受けにくい医薬品の設計のために重要である。 24年度は、23年度に確立したCYP2C9タンパクの大量発現系、及びタンパク精製系を用いて、純度の高いCYP2C9野生型・変異型の可溶化タンパクを大量に精製し、結晶化スクリーニングを行った。CYP2C9野生型タンパクを発現させた大腸菌を、超音波破砕後、界面活性剤により可溶化し、Ni-NTAアフィニティークロマトグラフィー、陽イオン交換クロマトグラフィーを用いてCP2C9タンパクを精製した。最終的に1Lのカルチャーあたり、Absoluteスペクトル及びCO差スペクトルから算出して純度98%以上のCYP2C9タンパクを65 nmol得た。精製タンパクをロサルタンと反応後、反応溶液をタンパク濃度として、30 mg/mlになるまで濃縮し、sitting-drop蒸気拡散法にて結晶化スクリーニングを行った。得られた結晶を、放射光施設にて測定し、分解能3.1オングストロームの回折データを収集した。今回データ収集に使用した結晶は、CYP2C9としてはこれまでに報告例のない空間群に属する結晶であり、ヘム鉄周辺には、ロサルタン由来と考えられる差フーリエ電子密度マップが得られた。Ala477Thr残基は、活性中心においてロサルタンに近接して位置し、ロサルタンの代謝に対するこの残基の重要性が示唆された。今後は高分解能の回折データを収集するため、結晶化条件の最適化を行い、野生型と変異型タンパクへのロサルタンの結合様式の違いをX線結晶構造解析により明らかにする予定である。
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