MDGA1はイムノグロブリンスーパーファミリーに属するGPIアンカー型の細胞外タンパク質である。我々はこれまでに、MDGA1が中枢神経系の特定の神経群において発現が見られること、また、軸索走行領域に存在する未同定の因子とMAMドメインを介してheterophilicに結合することなどを明らかにしている。大脳皮質形成時においては、MDGA1は上層を構成する神経群に選択的に発現しており、層構築過程において重要な機能を果たしていることが推察された。そこで、MDGA1の大脳皮質構築過程における役割を明らかにするために、LacZノックイン-ノックアウトマウスを作製し、さらに、遺伝的背景の違いによる擾乱を避けるためにC57BL6マウスと戻し交配を10回以上行い、コンジェニック系統を作出した。今年度は、作出したコンジェニック系統を用いて、MDGA1発現細胞の大脳皮質構築過程における振る舞いを詳細に解析した。その結果、MDGA1欠失マウスにおいては、MDGA1発現細胞の皮質板内での移動に遅滞が認められ、皮質板内の配置にも異常が観察された。興味深いことに、このとき、Cux2を発現する上層の神経群の移動・配置にはこのような異常は認められず、MDGA1は、これを発現する一部の細胞においてのみ、その正常な放射状移動に必要であることが明らかとなった。これらの結果は、MDGA1が大脳新皮質の正常な構築に関与していることを明確に示しているのみならず、大脳新皮質構築時における放射状細胞移動が、細胞種によって異なる制御を受けていることを示唆する初めての知見である。こうした細胞種選択的な放射状移動制御が、大脳新皮質構築の多様性・柔軟性を保証する機構の一助となっていることが推察される。
|