本年度は、胸部大動脈瘤や腹部大動脈瘤形成へのテネイシンファミリーのメンバーの一つであるテネイシンX(TNX)の関与を検討し、さらには、患者の血中TNX濃度の変動が各大動脈瘤の形成と相関しているか否かを検討した。そのためにまず、胸部大動脈瘤や腹部大動脈瘤の手術患者を対象に、心臓・血管手術の際に病理標本として提出される各大動脈瘤組織の一部を用いて、TNX蛋白質の発現変動を調べた。その結果、正常血管組織に比べて、TNX蛋白質の発現が胸部大動脈瘤組織において2.2倍、腹部大動脈瘤組織において1.4倍の発現亢進が認められた。次に開発した血中TNX濃度の測定のためのサンドイッチELISA法を用いて、各大動脈瘤患者の血中TNX濃度を検討した。その結果、各大動脈瘤患者の血中TNX濃度は、健常人のその濃度とほぼ同じ値を示す事が明らかとなった。 また、正常血管組織に比べて、ヒト胸部大動脈瘤組織や腹部大動脈瘤組織において発現量に変動のある蛋白質を網羅的に探索し、発現変動蛋白質の機能分類を行い大動脈瘤の発生・形成に関与する代謝合成系やシグナル伝達系を明らかにすることを目指した。大動脈瘤疾患組織と正常組織からの細胞抽出液をトリプシン消化後、異なるiTRAQ試薬で標識し、陽イオン交換カラムとNano LCクロマトグラフィーにより分画し、MALDI-TOF/TOF MS/MSシステムにより、発現量に差のある蛋白質の同定を網羅的に行った。その結果、正常血管組織に比べて発現変動のある蛋白質を胸部大動脈瘤組織と腹部大動脈組織において各々同定した。そして、大動脈瘤組織で各発現蛋白質の発現パターンをクラスター解析してみると、興味深いことに、テネイシンファミリーのテネイシンC(TNC)とペリオスチンが、またTNXとVI型コラーゲンαサブユニットが、非常に類似した発現パターンを示すことが明らかとなった。
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