本年度は血管疾患においてテネイシン(TN)ファミリーと発現相関する蛋白質の同定を目指した。まず、腹部大動脈瘤(AAA)と胸部大動脈瘤(TAA)の患者の手術前と手術後の血清を用いて、術前と術後で発現量に差のある血清蛋白質の同定を行った。まず、各術前・術後血清サンプルから、血清中に多量に存在するアルブミン等を除去し、トリプシン消化後、異なるiTRAQ試薬で標識し、Nano LC クロマトグラフィーにより分画し、MALDI-TOF/TOF MS/MSシステムにより網羅的解析を行った。その結果、[術後血清中の蛋白質量]/[術前血清中の蛋白質量]が1.3倍以上の術後増加蛋白質をAAA血清中においては6個、TAA血清中においては8個同定した。一方、[術後血清中の蛋白質量]/[術前血清中の蛋白質量]が0.77倍未満の術後減少蛋白質をAAA血清中においては12個、TAA血清中においては17個同定した。しかしながら、同定したこれら蛋白質の中にTNファミリーのメンバーは見出せなかった。 次に、近傍正常組織と比べてのAAA病変組織やTTA病変組織における発現差異プロテオミクス解析を行ったところ、発現差異蛋白質としてAAA病変組織においては55個の特異的な蛋白質が同定され、TAA病変組織においては68個の特異的な蛋白質が同定された。興味深いことに、テネイシンC(TNC)は、近傍正常組織とAAA病変組織の発現量(0.93倍)はほぼ変化はないが、近傍正常組織と比べてのTAA病変組織の発現量は1.86倍と増加していた。また、AAA病変組織とTAA病変組織において共通に発現変動蛋白質として同定された121個の蛋白質の内、58個がAAA病変組織とTAA病変組織とで発現パターンに相違が見られた。TNCを始めとしてこれらの発現相違蛋白質が、AAA組織とTAA組織の病変の相違に関与している可能性が示唆された。
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