肺炎桿菌はヒト腸管や環境中に存在する細菌であり、日和見感染の原因菌の一つである。この菌による感染症治療には第3世代セフェム系抗菌薬やニューキノロンが多く用いられるが、現在、これらの抗菌薬に対して耐性を獲得した多剤耐性肺炎桿菌が、世界中で報告されている。 私は肺炎桿菌の多剤耐性に係る遺伝子を明らかにすることを目的として、以前に、抗菌薬に対する感受性が高い肺炎桿菌ATCC10031株から、抗菌薬多剤耐性変異株を分離した。 そして、本年度はこれらの肺炎桿菌の多剤耐性変異株のうち、それらの多剤耐性化の原因遺伝子に関する解析をまだ行っていない9株について、原因遺伝子を明らかにすることを目指した。その結果、未解析だった9株のうち、8株について多剤排出ポンプ遺伝子の発現上昇が起こっていることが明らかになった。抗菌薬耐性上昇の原因遺伝子が不明であった肺炎桿菌変異株Nov2-2という株では、RND型多剤排出ポンプKexFの発現上昇が起こっていることが分かった。これはタンパク質レベル、mRNAレベルの両面において確認された。しかし、興味深いことに、kexFとオペロンを形成しているkexEではmRNAの発現上昇が認められなかった。その後のいくつかの解析結果から、kexEの上流に大きなゲノムの欠落などが生じているのではないかと推定している。また、Oxa128という株で、RND型多剤排出ポンプのペリプラズム成分kexAのmRNA発現上昇を確認した。その他の6株ではkexDあるいはkexGの発現が上昇していることを、RT-PCRにより確認した。 今後は、それぞれの変異株で発現上昇が認められた遺伝子を破壊し、これらの遺伝子が真に多剤耐性変異株の多剤耐性化の原因遺伝子であるかどうかを明らかにする。
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