本研究はM期阻害剤であるKSP阻害化合物の作用機序解析研究であり、化合物がKSPに結合したのち細胞が異常なM期進行を経てM期停止に至るまでの過程を分子レベルで明らかにすることを目的とする。本年度は、核膜崩壊後の紡錘体構造形成過程におけるKSPの役割と阻害化合物の影響を検討した。微小管重合阻害剤nocodazoleで処理したHeLa細胞では、核膜が崩壊し染色体が凝縮しているものの、中心体は分離せず微小管もないM期細胞として留まっている。この状態から微小管重合阻害剤を除去し紡錘体構造を形成していく過程で検討した。nocodazole除去前ではKSPは細胞全体に拡散したように均一に分布しているが、除去後ただちに細胞内の数か所において局所的にKSPが集まることが観察された。このKSPがスポット状に集まる箇所を調べたところ、中心体ではなく、染色体キネトコアが寄り添っていることが明らかになった。この時点はまだ微小管が繊維状として確認できない段階であるが、KSPが局在する箇所全てにおいて紡錘体形成に重要なTPX2が共局在していた。その後の細胞内においては、中心体からの微小管伸長に優先して、染色体キネトコアから微小管が伸長していく様子が観察され、KSPとTPX2はキネトコアから伸長した微小管に沿って存在する。この紡錘体形成解析システムに、阻害様式の異なる2種類のKSP阻害化合物を用いて検討した。KSP阻害剤STLCはKSPがキネトコア近傍に集合・局在することを阻害するが、KSP阻害剤PVZB1194ではKSPのキネトコア局在を阻害せずTPX2とともに存在した。さらに検討したところ、KSPが存在しないキネトコアから伸長した微小管は脆弱であることが明らかとなった。この結果は、KSP阻害剤がKSPの機能阻害を通じてM期紡錘体形成におけるキネトコアの働きに影響を与えていることを示している。
|