HepG2細胞などのがん細胞を用いて、細胞分化・増殖時の細胞周期制御メカニズムの解析過程で、サイクリン依存性キナーゼ(cdk)阻害薬roscovitineが薬物代謝酵素(UGT1A1など)の発現を亢進することを認め、細胞周期等シグナル伝達系と結び付いた薬物代謝酵素発現制御機構の解明を目指した。Roscovitineの標的を同定するために、CDK2をノックダウンするとUGT1A1、CYP3A4の発現が亢進したことから、CDK2がこれら酵素の発現を負に制御していることが示された。Roscovitineを作用させてもCARの核内レベルに有意な影響は認められなかったが、PXRの核内レベルが増大したことから、PXRに焦点を当て、薬物代謝酵素発現調節機序を解析した。リガンド結合部位に変異を導入したPXRを用いて解析したところT290D PXRによりUGT1A1、CYP3A4の発現が抑制されたが、PXRの核内移行の抑制によることが示された。またS350D PXRによりUGT1A1、CYP3A4の発現が抑制され、CDK2によるPXRのリン酸化が抑制されたことから、roscovitineはPXRの350番目セリンをリン酸化するCDK2の作用を抑制することによりUGT1A1、CYP3A4遺伝子転写を亢進させること、言い換えると、CDK2はPXRの活性化を負に制御していることが示された。S350D PXRは野生型と同様に核内移行するが、roscovitine刺激後も活性の低下したアセチル化体であることを初めて明らかにした。また、S350D PXRはheterodimerを形成するRXRとの結合能が低下しており、コファクターSRC2過剰発現により部分的に活性が回復することから、CDK2によるS350のリン酸化はPXRの核内での活性化シグナル伝達を阻害していることが推察された。
|