ミトコンドリアの固有のリン脂質であるカルジオリピン(CL)はミトコンドリアの種々の機能タンパク質の活性発現やアポトーシスを制御するなど、発生・分化・老化に関わる機能リン脂質として注目を集めている。これまでのカルジオリピンの機能の研究は単離ミトコンドリア、または培養細胞を用いたものであり、個体レベルの研究は皆無である。生体での真のカルジオリピンの生理的機能を明らかにするためには、個体レベルの解析がが不可欠である。本研究はCL合成酵素(cls)遺伝子の欠損した線虫を解析することにより、CLの新たな生理的意義を探ることを目的とする。 平成22年度において研究代表者は、(1)cls欠損線虫の効率的な回収方法の確立、(2)cls欠損線虫の生化学分析、(3)生殖巣萎縮の原因因子としてのclsの解析を行った。cls欠損線虫は不妊であるため、大量培養が難しかった。そこで線虫研究で広く用いられるFeeding RNAi法を用いることで、cls遺伝子をノックダウンしたcls欠損線虫を大量に回収することが可能となった。そのcls欠損線虫に対して種々の生化学分析を行った。その結果、cls欠損線虫はCL含量、clsmRNA発現量ともに野生型に比べ著しく低下していること、ミトコンドリアの機能の指標である膜電位が低下していることを明らかとした。またcls欠損線虫にcls遺伝子を導入したリバータント線虫を作成し、cls欠損が生殖巣障害の直接の原因であることを明らかにした。現在、cls欠損線虫のミトコンドリア機能異常について、組織ごとでの解析を行っている。
|