ミトコンドリアの固有のリン脂質であるカルジオリピン(CL)はミトコンドリアの種々の機能タンパク質の活性発現やアポトーシスを制御するなど、発生・分化・老化に関わる機能リン脂質として注目を集めている。これまでのカルジオリピンの機能の研究は単離ミトコンドリア、または培養細胞を用いたものであり、個体レベルの研究は皆無である。生体での真のカルジオリピンの生理的機能を明らかにするためには、個体レベルの解析がが不可欠である。本研究はCL合成酵素(cls)遺伝子の欠損した線虫を解析することにより、CLの新たな生理的意義を探ることを目的とする。 平成24年度において研究代表者は生殖巣障害機構の解析として、(1)アポトーシスの関与、(2) 生殖細胞増殖能について解析を行った。 CLがアポトーシス制御に重要であることから、cls欠損線虫にアポトーシスが誘導されないced-3欠損変異を導入したが、生殖巣障害は回避されなかった。この結果は、生殖巣障害の原因としてアポトーシスは関与しないことを示唆している。次に生殖巣が萎縮する原因として生殖細胞の増殖能が低下しているのではないかと考え、増殖能を解析した。生殖巣の増殖領域の細胞数を野生型とcls欠損線虫で比較したところ、野生型に比べ増殖頻度が50%に低下していた。一方、興味深いことに生殖細胞以外の体細胞では増殖能に差異は認められなかった。 以上の結果より、線虫においてCLは生殖細胞の増殖を正に制御する因子であることことが明らかとなった。また、体細胞の増殖能やミトコンドリア機能が正常であったことから、CLのミトコンドリア機能に対する寄与は細胞や組織ごとに異なることが個体レベルで示唆された。
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