研究概要 |
申請者らは正電荷脂質であるDOTAPおよびDC-Cho1で構成される正電荷リポソームが粘膜免疫賦活化作用を有し,そのアジュバント作用発現にIL-6が必須のサイトカインであることをこれまでに明らかにしている.申請者は本正電荷リポソームのマウス鼻腔内投与後のIL-6産生細胞の同定を試みた.リポソーム投与後7日目にnasal passageにおけるIL-6濃度が顕著に増大したことから,nasal passageの単核球を調製し,FACSで細胞内IL-6濃度を測定したところCD4陽性細胞であるT-細胞群でIL-6陽性細胞数の増大が観察され,本リポソーム投与によるIL-6産生細胞はT-細胞であると推定した.また,本リポソーム投与群においてnasal passageにおけるCD11b細胞数が増大し,CD11b細胞はIgA産生細胞へと分化誘導されたことから,リポソーム投与によりT-細胞から産生されたIL-6がCD11b細胞をIgA産生細胞へと分化させている可能性を示唆する新たな興味深い結果を得てきた。さらに,鼻腔投与後,リポソームは樹状細胞に効率よく取り込まれる知見を得ていることから,本リポソームによるIL-6産生誘導に,樹状細胞をはじめとする抗原提示細胞の関与が示唆された. 当該年度は,DOTAPおよびDC-Cho1で構成される正電荷リポソームによるIL-6産生機構の詳細をGM-CSFに注目し検討を加えた.マウスnasal passage細胞に市販のGM-CSFを添加したところ,有意に高いIL-6産生が認められた.さらに,MACSシステムを用いてnasal passage細胞をnon-T細胞群とT-細胞群に分画し,GM-CSFを添加によるIL-6の産生を検討したところnon-T細胞群からIL-6産生が認められた.また,本リポソームをマウス経鼻投与し,nasal passageにおいてGM-CSFの誘導が観察されることを,mRNAおよびタンパクレベルで明らかにした.これらの知見から,DOTAPおよびDC-Cholで構成される正電荷リポソームによるIL-6産生にGM-CSFが深く関わることが示唆された.以上得られた結果は現在論文として投稿論文作成申である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
申請者はこれまで正電荷リポソームの粘膜免疫アジュバント機構に関して検討を加え,(1)IL-6産生誘導,(2)GM-CSFの誘導,(3)リポソームの取り込みにNALT樹状細胞の関与,(4)IgA産生におけるCD11b細胞の関与を明らかにするなど,ほぼ満足すべき進捗状況にあると判断するが,成果としての論文投稿が遅れている.
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今後の研究の推進方策 |
本正電荷リポソームの粘膜免疫賦活化にIL-6の産生誘導が重要な役割を果たしており,その産生にGM-CSFが深く関わることを示唆する結果を得た.当該年度は,抗GM-CSF抗体を用いIL-6産生におけるGM-CSFの関与,およびGM-CSF産生細胞を同定し,本正電荷リポソームによる粘膜免疫賦活化機構の全貌を明らかにする.さらに,IL-6産生能を指標に種々の正電荷脂質からなるリポソームの粘膜免疫アジュバント開発につなげる.また,これまで得られた結果も含め3報の論文として纏める.
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