腸管上皮細胞は腸管内の有害物質に対するバリアを形成している。私たちは、Trans well上で培養10日以後のヒト消化管培養細胞Caco-2 monolayerを用い、EtOHを添加することによりtransepitherial electric resistance (TER)低下を指標としたバリア機能の崩壊を伴う消化管障害モデルを作成した。一方、Caco-2細胞より抽出したタンパク質を用いて熱ショック転写因子-1 (HSF-1)、HSP70をWestern blot analysisにより検出した。同様に、核タンパク質を用いてビオチン標識した熱ショックエレメント(HSE)をプローブとしてgel shift assayを行った。 培地中にEtOHを添加すると、濃度依存性にバリア機能が障害された。EtOH(6%、2時間)によるバリア機能障害は培地中にグルタミン(Gln)(4mM)を添加することにより有意に改善された。その際、細胞内ではHSF-1のリン酸化と核内移行を伴うHSP70の誘導が増強された。熱ショックのみではバリア機能に影響を及ぼさなかったが、その後EtOHを添加すると、HSP70誘導の早期化と共に顕著なバリア機能の回復が認められた。 以上の結果から、Caco-2細胞へのEtOH添加はバリア機能を可逆的に障害し、その際誘導されるHSP70はHSF-1のリン酸化と核への移行によるものであることが明らかとなった。熱ショックにより誘導されたHSP70はEtOH添加によるバリア機能障害からの回復を促進したことから、HSP70はバリア機能を保護する役割を果たす可能性が考えられる。消化管保護効果が知られているGlnはEtOH添加による障害時のHSF-1のリン酸化を促進し、HSP70の誘導を増強することにより、Caco-2細胞のバリア機能の回復を促進する可能性が示唆された。
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