本年度は、マウス大脳皮質由来培養神経系前駆細胞(mNPCs)および神経系前駆細胞のモデル細胞であるレチノイン酸による分化誘導後のP19(P19-NPCs)に発現するOCTN1が、in vivo基質である抗酸化物質ergothioneine(ERGO)の細胞内取り込みを介して、細胞の増殖・分化能に及ぼす影響を検討した。 mNPCsをERGO添加条件下で培養すると、細胞塊の形成は抑制された。他の抗酸化物質であるedaravone(Eda)やascorbic acid(AA)添加条件下で培養した場合においても、細胞塊の形成は抑制された。これら3種の抗酸化物質は、いずれも細胞内の活性酸素種を顕著に減少させた。一方、P19-NPCsに発現しているOCTN1をsiRNAによってノックダウンしたところ、ERGO添加の場合とは逆に細胞塊の形成は促進された。 mNPCsをERGO添加条件下で培養した後、接着培養による分化誘導を行ったところ、転写制御因子Math1の発現誘導を伴い、神経細胞マーカーβIII-tubulin陽性細胞数は増加し、アストロサイトマーカーGFAP陽性細胞数は減少した。細胞増殖の場合とは異なり、EdaやAAによっては、細胞分化は影響を受けなかった。一方、P19-NPCsにおけるOCTN1ノックダウンは、Math1の発現抑制を伴い、βIII-tubulin陽性細胞数を減少させ、GFAP陽性細胞数を増加させた。 以上の結果より、mNPCsに発現するOCTN1は抗酸化物質ERGOを細胞内に取り込み、細胞内の活性酸素種を除去することにより、細胞の増殖能を負に制御している可能性が示された。また、mNPCsに発現するOCTN1によるERGOの細胞内取り込みは、抗酸化能以外の細胞内メカニズムを介して転写制御因子Math1の発現誘導を伴い、神経細胞への分化能を促進する可能性が示された。
|