ウィルス感染症は、痙攣発作や統合失調症などの中枢神経障害に関連するため、その病態や治療薬の研究には病態モデルの作成が重要である。本年度の研究では、合成2重鎖RNAのpoly I:Cを実験動物に投与した擬似的ウィルス感染モデルを作成し、行動薬理学的検討を行った。痙攣実験では、まずpoly I:C (1-30mg/kg)を腹腔内投与したマウスに、GABA受容体遮断薬のpentylenetetrazolを投与して痙攣の発現を観察したが、その増悪は軽度であった。しかし、poly I:C(50-100μg)を脳室内に微量注入したマウスでは用量依存的な痙攣の増悪が認められ、その作用はpoly I:C投与の24時間後で顕著であった。従って、poly I:Cの脳室内投与モデルは、ウィルス感染時の痙攣増悪モデルとして有用と考えられ、その機序には脳内のGABA神経系の関与が推察された。一方、周産期または幼弱期にpoly I:Cを投与した感染モデルでは、実験動物が成長した後に情報処理能力が障害されることから、統合失調症との関連性が推察されている。また、近年アセチルコリンα7型ニコチン受容体は神経終末のみならずマクロファージ上に存在して炎症反応に関与していることが明らかになり、その多彩な作用が注目されている。そこで、本年度の研究では、まず情報処理機能障害に対するα7型ニコチン受容体の影響を明らかにする目的で、音刺激による感覚情報処理能力をprepulse inhibition (PPI)試験により検討した。実験では、ドパミン作動薬(apomorphine)によって惹起されるラットのPPI障害に対する影響を検討した結果、α7型ニコチン受容体作動薬のtropisetronが有意な改善作用を示すことが明らかになった。今後は、これらの動物モデルを用いて中枢神経機能障害の発症機序の解明を行うとともに、治療候補薬の探索を行う予定である。
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