ウィルスや細菌などによる末梢性の感染症が、しばしば中枢神経学的障害を惹起することが知られている。従来より、様々な炎症惹起剤を用いた炎症モデルが活用されてきたが、近年、合成2重鎖RNA のポリイノシンポリシチジン酸 (polyI:C)を応用することにより、動物に擬似的ウィルス感染を作製できることが報告され、新たな動物モデルとして注目されている。我々は、これまでに、角膜キンドリングの手法を用いて“てんかんマウス”を作成し、このてんかんモデルにおけるpolyI:C投与の影響を検討した。てんかんマウスは、単回では痙攣を惹起することない電流をマウスの角膜より通電し、この刺激を繰り返すことで最終的に全身性の痙攣発作を惹起する、いわゆる“てんかん原生を獲得したてんかんモデル”を作成した。この“てんかんマウス”にpolyI:Cを投与して角膜キンドリングを調べると有意な痙攣閾値の低下が認められ、その増悪は無処置のマウスを用いた場合と比較して顕著であった。 一方、近年、非ヒストン核蛋白の主要成分であるHigh Mobility Group Box Protein 1(HMGB1)が炎症性メディエーターとして作用すること、ならびに抗 HMGB1単クローン抗体が脳梗塞モデルで顕著な改善効果を示すことが報告され注目されている。今回の検討において、我々はpolyI:Cを角膜キンドリングマウスに投与することによって惹起される痙攣増悪が、抗HMGB1抗体を前処置することで有意に抑制されたことを見出した。従って、“てんかんマウス”にpolyI:Cを投与した擬似的ウィルス感染モデルは、ウィルス感染に伴う痙攣発作などの中枢神経障害の研究に有用であると考えられる。
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