研究概要 |
研究概要:我々は、微量水素ガス(飲水中0.008ppm)が神経保護作用をもつこと、またそのメカニズムの一部をパーキンソン病モデルマウスで示し(Fujita et al., PLoS One, 2009)、また、虚血視神経モデルでは、予め水素分子を動物が摂取しておくことによって、視神経が体外に摘出された後、数時間経っても虚血に対する抵抗性があることを突き止めた(未発表)。従って、水素分子の作用は、単にヒドロキシルラジカル消去剤としての作用だけではなく、持続性の神経保護作用を持つことが示唆された。そこで、その作用メカニズムを分子レベル・遺伝子レベルで明らかにすること、水素分子による未知の作用メカニズムを明らかにすることが本研究の目的である。 本研究の意義と重要性:当初、水素含有水による神経保護作用は、抗酸化酵素群を誘導する転写因子の一つであるNrf2によるものだと考えていた。ところがNrf2を良好に誘導する細胞として知られるアストロサイトの活性化が、水素水の神経保護作用が認められる時間帯より後でしか見られないことや、神経変性に関与するミクログリアの活性化にも影響がなかったことを踏まえると、神経細胞自身でNrf2と異なる何らかの変化が保護作用に繋がったと考えられる。そこで、神経保護作用をもつ様々な分子の中でストレス関連因子であり、シャペロン分子であるheat shock protein 70 (Hsp70)に注目した。MPTPパーキンソンモデルマウスに予め水素水を1週間飲水させ、MPTPを投与してパーキンソン病の病態を観察したところ、水素水飲用グループのマウスにおいてのみ、MPTP投与後に条体におけるHsp70発現が増大していた。本年度の結果は、水素の神経保護作用には水素の抗酸化作用に加え、Hsp70発現という全く新規のメカニズムが関与することを示唆し、水素による神経保護作用のメカニズム解明に大いに貢献することが期待される。
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