研究課題/領域番号 |
22590084
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
野田 百美 九州大学, 薬学研究院, 准教授 (80127985)
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キーワード | 神経生物学 / 水素分子 / 神経疾患 / 酸化ストレス / パーキンソン病 / 視神経障害 / 虚血 |
研究概要 |
研究概要:我々は、微量水素ガス(飲水中0.008ppm)が神経保護作用をもつこと、またそのメカニズムの一部をパーキンソン病モデルマウスで示し(Fujita et al., PLoS One, 2009)、また、虚血視神経モデルでは、予め水素分子を動物が摂取しておくことによって、視神経が体外に摘出された後、数時間経っても虚血に対する抵抗性があることを突き止めた(来発表)。従って、水素分子の作用は、単にヒドロキシルラジカル消去剤としての作用だけではなく、持続性の神経保護作用を持つことが示唆された。そこで、その作用メカニズムを分子レベル・遺伝子レベルで明らかにすること、水素分子による未知の作用メカニズムを明らかにすることが本研究の同的である。 研究結果:MPTPパーキンソンモデルマウスに予め水素水を3日、5環、1週間、10日間飲水させ、MPTP投与後は水道水に切り替え、パーキンソン病の病態を観察した。その結果、予め1週間以上、水素水飲用していたマウスにおいて、水素水による神経保護効果が観察された。また、シャペロン分子であるHsp72の発現が、水素水飲用群の黒質において有意に増大していた。他の抗アポトーシス分子であるbcl-2も、Hsp72同様に発現亢進していた。他のHspファミリーのうち、Hsp90は水素含有水飲水群で減少したが、Hsp27は増減がなかった。このとき、Hsp72発現誘導に関与する転写因子HSF((heat shock transcription factor)-1は核内タンパク量が顕著に増大していた。このことは、HSF-1の核内移行を増大させ、転写を促進することによってHsp72およびbcl-2の発現を促進しているものと考えられた。一連のHsp発現量が増加するheat shock responseを抑制する薬剤といわれるquercetinを投与したマウスでは、水素含有水によるHsp72発見上昇は兇られず、神経保護作用も認められなくなった。本研究の意義と重要性:本年度の結果は、水素の神経保護作用には水素の急性作用である抗酸化作用に加え、水素含有水はheat shock responseを介して神経保護作用を示すことが示唆された。水素水の慢性摂取により、全く新規の神経保護メカニズムが関与することを示唆し、水素による予防医学の解明に大いに貢献することが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
水素の細胞内作用メカニズムとして、heat shock responseが関与することを突き止め、水素の作用がある程度解明できた。
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今後の研究の推進方策 |
水素が最終的にheat shock proteinやbcl-2といったシャペロン分子が発現することがわかったが、水素が直接、脳内の黒質に到達して作用しているとは考えがたい。水素水を飲んだ後の血中水素濃度、および脳内水素濃度は、感知できないほどの低濃度であるか、あるいは上がらない可能性が示唆されているからである。実際、我々も線条体での水素濃度測定を試みたが、高濃度水素の吸気では水素濃度が上がったものの、飽和水素水を胃内に注入しても、線条体での水素濃度に変化は見られなかった。そこで、水素水の中の水素が、飲用によって、どのような経過をたどって中脳黒質のheat shock proteinやbcl-2の発現を上げるのか、その途中経過を明らかにする必要がある。
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