本研究の目的は、抗がん剤による消化管障害モデルラットを用いて、制がん剤投与による腸管セロトニン代謝異常と遅延性嘔吐誘発機序におけるNOの役割を解明することである。今年度は、これまでに検討したメトトレキサート(MTX)とシスプラチン以外の抗がん剤、即ちシクロホスファミドと5-フルオロウラシルのNO代謝に及ぼす影響を検討したが、それらはいずれもNO代謝に影響を及ぼさず、MTXが特異的に小腸でのiNOS発現を亢進し、セロトニン代謝異常と関連することが確認された。そこで次に、セロトニンと共に腸管エンテロクロマフィン(EC)細胞に共存し、セロトニンの生理活性や代謝との関連が示唆されているサブスタンスPの動態に及ぼすMTXの影響に焦点を当てた検討を行った。MTX投与96時間後の摘出回腸から総RNAを抽出し、サブスタンスPの前駆体であるプレプロタキキニン-A(PPT-A)あるいはタキキニンNK1受容体のmRNA発現を定量的RT-PCRにより検討したが、対照群に比べて有意な変化は認められなかった。また、ラットより採血し、血漿中のサブスタンスP濃度を測定したが有意な変化はなかった。しかし、摘出回腸のパラフィン切片を作製し、抗サブスタンスP抗体を用いた免疫組織化学的な検討によりサブスタンスP含有細胞数を測定したところ、MTXはその細胞数を著明に増加していることが観察された。この結果より、MTX投与後の遅延性期において、5-HT及びサブスタンスP含有のEC細胞の過増殖が起こっているが、それらの遊離は亢進していないことが示唆された。PPT-A mRNA発現は96時間以前に亢進しているものと推察され、NK1受容体mRNA発現とともに時間依存的な変化を検討する必要があると考えられる。それらの変化とNO産生との関連と更に検討し、制がん剤の遅延性嘔吐発現機序のさらなる解明が今後の課題として総括された。
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