ニューロラチリズムはグラスピー豆の単独過剰摂取による運動疾患である。我々が開発したニューロラチリズムモデルラットは、豆の神経毒β-ODAPの連続末梢投与によって後肢対麻痺を発症し、アダルトでは腰髄・仙髄の運動神経(MN)が約4割まで脱落する。今回投与初期の麻痺を発症する時期に、責任部位である脊髄運動神経はすでにネクローシス様の形態変化を示すことがわかった。同時にグリオーシス、IL-6ならびにTNF-αのmRNAレベルの有意な上昇が検出された。一方、血管の生存維持に重要なVEGF receptor(R)-2についてはタンパク質とは逆にmRNAが上昇しており、血管透過性にかかわる諸因子は不変だった。従って神経毒β-ODAP投与によって生ずる脊髄での炎症性変化とVEGFR-2プロセシングの異常が明らかとなった。一方、β-ODAPのMN毒性機構についても検討した。運動神経培養株NSC34において、含硫アミノ酸およびグルタチオン欠乏にすると毒性が増加する。この時Transient receptor potential(TRP)チャネル2および7のmRNA発現が上昇していた。TRPM2および7を薬理学的に抑えるとβ-ODAPの毒性も有意に低下した。また、モデル動物脊髄においても、麻痺発症期の脊髄下部でTRPM7のmRNAが有意に上昇していた。以上の知見から本疾患の病態のメカニズムとして、豆由来の含硫アミノ酸の低下による酸化ストレス条件下にβ-ODAPが作用すると、TRPMチャネル開口を介したCa2+-オーバーロードによりMN細胞死がひきおこされると考えられた。また観察された炎症像から、β-ODAPは同時にMNを養う脳・脊髄の血管系ならびに(もしくは)周辺グリアに対しても何らかの未解明の影響を与え、毒性増幅が起こると予想された。今後これを明らかにしたい。
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