海馬の神経細胞が変性脱落するアルツハイマー病の本質的治療には、海馬を元に戻す技術が必要になる。近年、完成した大人の海馬には神経幹細胞が存在し、絶えず神経細胞が新生されていることが発見された。脳が備えた神経新生の仕組みをうまく制御できれば、萎縮した海馬を部分的にでも元に戻すことは可能だろう。また豊かな環境で育った動物では、海馬の神経新生が活発になると報告されている。脳の中で感覚情報の価値判断を行うのは「扁桃体」であることから、本研究では「扁桃体が海馬の神経新生を左右する」という仮説をたて、その実証を試みた。 計画3年目(最終年度)にあたる平成24年度は、これまでに確立したin vivo海馬神経新生の定量解析法を応用し、海馬の神経幹細胞に対する脳弓-海馬采(FF)ならびに扁桃体破壊の影響を検討した。ラットを麻酔下で脳定位固定装置に固定し、脳座標に従って両側のFFを切断し、2週間の回復期間を経た後に実験に供した。増殖性細胞に取り込まれるブロモデオキシウリジン (BrdU) を腹腔内投与し、その24時間後にパラホルムアルデヒド溶液で経心還流固定してから脳を摘出した。脳スライスに抗BrdU抗体を用いた免疫染色を施して顕微鏡観察したところ、海馬歯状回におけるBrdU陽性細胞細胞数がFF切断によって増加する傾向が認められた。一方、扁桃体については、麻酔下で電極を刺入して通電(1.5 mA、10秒)することにより破壊した。BrdUの腹腔内投与24時間後に動物を経心還流固定してから脳を摘出し、脳スライスに抗BrdU抗体を用いた免疫染色を施して観察したところ、扁桃体破壊群の海馬歯状回ではBrdU陽性細胞数が減少する傾向が認められた。今後さらに解析を進めることで海馬神経新生における扁桃体の関与を明らかにできると期待された。
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